ラテン語版『アヴェ・マリア』 【カタカナ歌詞】

『アヴェ・マリア』のラテン語歌詞をカタカナに書き起こしました。
当記事では特に有名なシューベルト、グノー、カッチーニの三大曲を個別に書き分け、説明を交えつつご紹介していきます──





聖母に祝福を

『Ave Maria(アヴェ・マリア)』はラテン語で「敬愛するマリア様」といった意味をもち、キリスト教・カトリックでもっとも有名な祈祷文のひとつ。(※1)
内容をかんたんにまとめると、聖母マリアに祝福をささげ、人々への恵みと加護を乞う…といった文言。
同名のグレゴリオ聖歌がオリジナルとなっています。

また、『アヴェ・マリア』はカトリック教徒だけでなく幅広い層から愛され、さまざまな作曲家が楽曲を捧げてきました。
中でも有名なのがシューベルト、バッハ&グノー、カッチーニによる三大曲。
まずはそれぞれの特徴を見ていきましょう。





わかりやすい三大『アヴェ・マリア』


実は替え歌・シューベルト作

日本でもっとも有名なのがフランツ・シューベルト作品。「アヴェ・マリアといえばこの曲」と言う方も多いことでしょう。
実はこの曲のオリジナルは『エレンの歌 第3番』。もともとドイツ語の歌曲だったのですが、たまたま曲中に聖母マリアに祈りを捧ぐシーンがあったことから宗教音楽と勘違いする者が続出し、祈祷文に差し替えたラテン語版アヴェ・マリア──いわゆる替え歌が誕生。
その美しさが話題を呼び、『シューベルトのアヴェ・マリア』の名で広まってしまいます。
『シューベルトのアヴェ・マリア』で探すとドイツ語版とラテン語版が出てきてしまうのはこのため。また、ラテン語版がややマイナー扱いされている理由もここにあります。

歌唱は高音からはじまり、メロディアスで優美なのが特徴。映画だけでなくアニメ作品などでも幅広く用いられています。



時空をこえた完成曲・バッハ&グノー作

次いで有名なのがヨハン・セバスティアン・バッハとシャルル・グノーによる作品。バッハの楽曲にグノーが祈祷文を充てたことによって誕生しました。
と言っても両者は生まれた時代が異なり、実に130年越しの共同作品。
クラシックでは『バッハのアヴェ・マリア』、聖歌では『グノーのアヴェ・マリア』などと呼ばれています。

歌唱が低音域からはじまり、おだやかで落ち着いた雰囲気が特徴。例えるならシューベルト作品と真逆のイメージです。


誤解された名曲・カッチーニ作

17世紀のイタリアの作曲家ジュリオ・カッチーニ──
しかし実際に作曲したのは20世紀のロシアの作曲家ウラディーミル・ヴァヴィロフとされています。
そもそもヴァヴィロフが誤解の原因でして、彼は自作品を過去の偉人名義で発表するクセ者でした。(※2)
そんな中、アヴェ・マリアを作者不詳としたまま逝去。関係者の間で「?」が「??」を呼び、いつの間にか『カッチーニのアヴェ・マリア』と称されるようになったのです。(※3)
カッチーニさんにとっては「???」な状況ですね。

この曲の最大の特徴は歌詞が「Ave Maria」のくりかえしであること。メロディはどこか物憂げで、例えるなら「聖母のたそがれ」といった印象です。





カタカナ歌詞について

表記はネイティヴ発音を基にし、聖歌などで用いられる教会ラテン語に最適化しています。
rは基本的に巻き舌です。
hは発音しないスペルです。
vは時代や場所にしたがって発音が変化したスペルです。aveを例にすると古典式は「アウェ」。教会音楽(教会ラテン語)は「アヴェ」と発音します。
この事から、場合によっては「アウェ・マリア」と読まれることもあります。しかし教会音楽や近年の楽曲では「アヴェ」が主流のため、当記事では後者を採用しています。(※4)

発音の詳細は歌うためのラテン語入門をご覧ください。

歌詞は3曲それぞれに書き分けました。
歌うアーティストのアレンジによって内容が微妙に異なりますので注意してください。





シューベルトのアヴェ・マリア
アーティスト/─
アルバム/─

歌詞


Ave Maria, gratia plena
アヴェ・マリア グラーツィア・プレーナ

Maria, gratia plena
マリア グラーツィア・プレーナ

Maria, gratia plena
マリア グラーツィア・プレーナ

Ave, Ave Dominus
アヴェ アヴェ・ドミヌス

Dominus tecum
ドミヌス・テークム



benedicta tu in mulieribus
ベネディクタ・トゥー・イン・ムリエーリブス

et benedictus
エト・ベネディクトゥス

et benedictus fructus ventris
エト・ベネディクトゥス・フルゥクトゥス・ヴェントリス

ventris tui Jesus
ヴェントリス・トゥーイ・イェーズゥス

Ave Maria
アヴェ・マリア



Sancta Maria, mater Dei
サンクタ・マリア マアテル・デイ

ora pro nobis peccatoribus
オーラ・プロォ・ノービス・ペッカトーリブス

ora, ora pro nobis
オーラ オーラ・プロォ・ノービス

ora, ora pro nobis peccatoribus
オーラ オーラ・プロォ・ノービス・ペッカトーリブス

nunc, et in hora mortis
ヌンク エト・イン・オーラ・モォルティス

et in hora mortis nostrae
エト・イン・オーラ・モォルティス・ノーストレ

et in hora mortis
エト・イン・オーラ・モォルティス

mortis nostrae
モォルティス・ノーストレ

et in hora mortis nostrae
エト・イン・オーラ・モォルティス・ノーストレ

Ave Maria
アヴェ・マリア




Ave Maria
アーティスト: ケルティック・ウーマン


ケルティック・ウーマンが歌う『シューベルトのアヴェ・マリア』。ドラマティックな演奏をバックに、のびやかに歌うさまは壮麗の一言。
歌唱力は言わずもがな、ラテン語の発音も明確で美しい一曲です。
※歌詞の一部が若干 異なります。(Sancta Maria(サンクタ・マリア)→Ave Maria(アヴェ・マリア))










グノーのアヴェ・マリア
アーティスト/─
アルバム/─

歌詞


Ave Maria, gratia plena
アヴェ・マリア グラーツィア・プレーナ

Dominus tecum
ドミヌス・テークム

benedicta tu in mulieribus
ベネディクタ・トゥー・イン・ムリエーリブス

et benedictus fructus ventris tui Jesus
エト・ベネディクトゥス・フルゥクトゥス・ヴェントリス・トゥーイ・イェーズゥス



Sancta Maria
サンクタ・マリア

Sancta Maria
サンクタ・マリア

Maria
マリア

ora pro nobis
オーラ・プロォ・ノービス

nobis peccatoribus,
ノービス・ペッカトーリブス

nunc, et in hora
ヌンク エト・イン・オーラ

in hora mortis nostrae
イン・オーラ・モォルティス・ノーストレ



Amen
アーメン

Amen
アーメン




Ave Maria (LP Version)
アーティスト: ジュエル


Jewelが歌う『グノーのアヴェ・マリア』。
しっとりした低音ボイスが耳に心地よく、3:44があっという間に感じられるほどやさしい一曲です。










カッチーニのアヴェ・マリア
アーティスト/─
アルバム/─

歌詞

(歌詞は「Ave Maria」「Ave」のみとなります)



Ave Maria...
アヴェ・マリア…



※くりかえし※




アヴェ・マリア(カッチーニ)
アーティスト: ヘイリー


ヘイリー・ウェステンラが歌う『カッチーニのアヴェ・マリア』。
管弦楽をバックに、ひとり高らかに歌い上げるさまは まさに祈りの歌。
艶のある歌唱に酔いしれる一曲です。










補足

※1
実は「ave」の解釈があまりにも広義なため、適切な日本語というものが存在しない。
日本カトリック司教協議会はこれを無理に訳さず、そのまま「アヴェ・マリア」と読むよう推奨している。
また、日本における祈祷文の口語訳も歴史が浅く、初出は1993年。現在 定着している正式口語訳も2011年に承認されたばかり。(ただし意訳は以前から存在していた)
これらの経緯と正式口語訳はカトリック中央協議会HP(解説文つき)で見ることができる。

※2
ヴァヴィロフの偽作群は当時のソ連情勢に由来する。
彼は第二次世界大戦への出征後にサンクトペテルブルク国立音楽院・大人の部で音楽を学んだが、政府が定めた作曲家の資格規定(主に専門学歴)を満たすことができず、公に作曲活動ができなかった。よって、逮捕を避けるために作品を過去の作曲家名義で発表するに至った。
また、当時のソ連は国外文化が大幅に規制されており、クラシック音楽も例外ではなかった。ヴァヴィロフは監査の虚を突き、ルネサンスやバロック音楽の作曲家の名を用いたと思われる。
没後、家族や音楽仲間が「これらは彼の作品だ」と公表したが、『アヴェ・マリア』を作者不詳とした理由は語られておらず、海外ファンの間でちょっとしたミステリーになっている。
(情報提供:ふらふら(@frafrayuran)様)
(参照:ロシア版wikipedia「Вавилов, Владимир Фёдорович」

※3
カッチーニはバロック音楽の礎を築いた人物。晩年は宗教音楽に携わっていたが、『カッチーニのアヴェ・マリア』は彼の作風にそぐわないと指摘されている。また、曲中にはカッチーニの時代に存在しえなかった音楽技法が散見される。

※4
あくまで主流であって、どちらも間違いではない。
アーティストの意向によって あえて古典式の発音で歌われることもある。





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